国文学科近況(2020年8月)

コロナ禍中の国文学科について             2020年8月23日

                       国文学科長 長尾 直茂

 誰しもが、(こんな事になるとは)と悪夢に魘されるかのような、年度末から年度初めにかけての忌まわしい時期を過ごされたものと思う。以下、時系列的にコロナ感染症流行のために影響を蒙った学科行事について備忘録的に書き留めて、近況報告に代えたいと思う。

 新型肺炎の感染症が中国で流行し始めたことは2020年の正月には、すでに身近な話題となってはいたが、その時点では正しく対岸の火事のようなもので、誰もがこのような世界的な感染拡大となることなぞ想像すらしていなかったであろう。それが証拠に、1月11日(土)には予定通り国文学会が開催され、2020年3月を以て大学を退かれる予定であった、小林幸夫・西澤美仁両教授の記念講演を恙なく執り行い、学会後は会場を四ツ谷駅前の主婦会館に移して歓送会を行ったのである。コロナウィルス流行下の現在からは到底考えられないことであるが、宴席には両先生を慕って多くの卒業生も駆けつけ、それはそれは盛大で賑やかな会であった。

 2月初めには一般入試が始まり、通常通りの日程で全試験を実施した。しかし、この際にはすでに日本におけるコロナウィルスの流行が問題視され始めていたため、入試日程が予定通りこなせるか否かで、関係部署はひじょうに気を揉んだとの事、後に耳にした。確かにコロナウィルスがひたひたと忍び寄って来ていることが、日々刻刻とわかるような時期であった。国文学科には例年と変わらぬ数の受験生があり、無事に新入生60名を選抜することができた。

 2月の中旬には大学院の修士論文口頭試問や大学院入試も予定通り行うことができたが、この頃には相当に雲行きがおかしくなっていた。横浜の大黒埠頭に停泊したままのダイヤモンド・プリンセス号内のパンデミックが連日のように報道されて、人々の不安は日増しに高まって来ていた。

 2月下旬に大きな転機を迎えた。これ以降は全ての行事が中止となった。大学院修了生の壮行会や学科会議等の人の集まる会合は取り止めざるを得ず、学内の課外活動も全面的に中止となった。学生のいない大学は、風ばかりが吹いて閑散として寂しかった。この後、3月24日(火)に挙行される予定であった卒業式すら取り止めになった。それでも24日には袴や背広の礼服を身にまとった卒業生がキャンパスに集まり、互いに卒業を喜び合う姿がここかしこに見受けられた。謝恩会の開催も大学から中止するよう通達があり、われわれ教員は卒業生と別れを惜しむ機会もなく年度を終えることとなった。

 4月からの新年度については、思い返したくもないほどの状況であった。入学式も取り止め、オリエンテーション・キャンプもフレッシュマン・ウイークも当然のごとく無し。非常事態宣言が発令されてからは、加速度的に諸般の行事の中止が決定され、大学構内にすら自由に入ることができないような状況となった。講義の実施もオンラインとなり、対面で行う講義は全て禁止された。新入生60名と顔を合わせることもなく、新年度が始まったのである。

 こうした最中に学科には、新任教員として山本章博准教授が着任された。山本准教授は本学及び大学院に学ばれた方であるので、学会員の多くはご存知のことと思うが、中世文学を専門とされ、3月を以て退休された西澤教授の講義を引き継ぐ形での着任となる。山本准教授が学科のスタッフに加わり、小林・西澤両教授が退かれたことで、学科所属の教員は8名となった。依然として近世文学を担当する教員を欠いている状況ではあるが、学科が若返りを図りつつ着々と優秀なスタッフを迎えて活性化の傾向にあることは、何よりの慶事であると思う。

 5月25日(月)よりオンラインでの講義を開始して以降、6月に開催予定であった、高校生向けのオープンキャンパス、保護者を大学に招いての地域懇談会も三密を避けるために中止。7月11日(土)に開催予定であった国文学会も遺憾ながら中止とした。かくして前代未聞の春学期は終了した。そして、今なお全国的にコロナウィルス感染者がじりじりと増加する傾向にあることをうけて、大学では秋学期の講義も基本的にオンラインでの講義とすることに決定した。1年間にわたって対面での講義を行わないという、前代未聞の事態となることがすでに決まっているのである。

 秋学期には入学試験という、大学にとってきわめて大切な行事がある。こればかりは中止するわけにはゆかず、何としてでも実施せねばならないのであるが、前代未聞のことが起こらぬことを祈るばかりである。

 次回の近況報告では、学科の明るい展望を学会員の皆さまに報告したいと切実に思う。

国文学会と大学院の近況(2020年8月)

国文学会と大学院の近況                 2020年8月21日

               国文学会会長・国文学専攻主任 瀬間正之

 新型コロナウィルス禍で、卒業式・入学式もなく、春学期は試行錯誤のオンライン授業となりました。未だに新入生とは対面しておりません。卒業生とは、卒業証書配布の日に、それぞれの研究室単位で、数分立ち話を交わしたのみです。もちろん、学部の謝恩会も、大学院の壮行会も中止でした。

 大学院は、前期課程に四名、後期課程に三名の新入生を迎えました。昨年は前期課程0名、後期課程1名のみでしたので、活性化が期待できますが、授業はすべてオンラインで、新歓コンパも、毎月の例会も中止です。唯一、Zoomで自己紹介を兼ねた研究の現況の発表会を行ったのみです。

 今のところ、学生はもちろん、教員も原則として自宅待機です。学生はかろうじてあらかじめ手続きをすれば、図書館に短時間入室し、図書を借りられるようにはなりました。大学院生も手続きをすれば、国文学研究室の利用ができるようになってはいます。教員の入校も正門で教職員証の提示が必要です。学科事務室も現在は原則水曜日のみの開室です。秋学期もオンライン授業となることが決定しました。

 本学会も三密を避け、夏季大会は中止せざるを得なくなりました。帰省自粛とGOTOキャンペーンの共存が象徴するように、政権は相変わらず、密会・密談・密約の三密を繰り返しているようです。このままでは、冬季大会の開催も危ぶまれます。この秋から多くの学会がZoom開催の方向で大会を計画しています。冬季大会もオンライン開催となるかも知れません。

 さて、明るい話題を一つ。昨夏は、国際シンポジウム「第二回 日語日文学研究の現在」を釜山大学で開催しました。第一回の二〇一四年は、釜山大学日語日文学科と上智大学国文学専攻主催、釜山大学日本研究所共催という形でしたが、昨年は共催に上智大学国文学会も加わりました。大学院を修了したばかりの若手研究者も発表に加えるための措置でした。八月二六日出発、二七日に両校の院生・若手研究者の発表と懇親会、二八日は『高麗大蔵経』の版木を残す世界遺産海印寺・慶北大学博物館などを見学、二九日帰国という慌ただしい日程でしたが、有意義な交流となりました。写真はシンポジウム会場と海印寺で撮ったものです。

シンポジウム会場にて
海印寺にて

 冬季大会でお会いできればと思いますが、どうなることでしょうか。

国文学論集54 投稿募集

上智大学国文学会「国文学論集」54は、2021年1月に刊行を予定しており、皆様の御投稿をお待ちします。

1. 御投稿は、原則として、pdfをメールに添付して、次へお送り下さい。

jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp

2020年9月12日(土)23:59 迄に到着したものを、有効な投稿とします。
尚、メールへの添付が困難である場合は、十分に余裕を見て、事前に御相談下さい。

2. 紙の形で投稿される場合は、次へお送り下さい。

〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町7-1
上智大学文学部国文学科内 上智大学国文学会事務局

2020年9月12日(土)の消印までを、有効な投稿とします。

3. これ以外については、国文学会ホームページの「国文学論集 投稿規程」
を御覧下さい。

図書館6階国文学研究室・閉室

上智大学中央図書館6階の国文学研究室は、学長からの指示により、新型コロナウイルス対策として、当分の間、利用を停止致します。(2020年4月3日掲示)

上智大学中央図書館6階の国文学研究室の2020年4月上旬の開室予定は未定です。(2020年3月31日掲示)

上智大学中央図書館6階の国文学研究室は、2020年3月いっぱい閉室しますので、御利用になれません。(2020年2月29日、国文学科図書委員会決定)

2019年度冬季大会 発表要旨

上智大学国文学会 2019年度冬季大会発表要旨

標記は、次の通りです。

大会プログラムはこちらです。

抒情小曲集『思ひ出』のスタイル ―「断章」を中心に
青木 裕里香

北原白秋は生涯を通して詩・短歌・童謡などの領域に活躍の場を見出したが、その中でも詩の領域に目を向けると、詩人としての白秋の評価は曖昧なまま留保されている。白秋の詩人としての出発において注目すべきであるのは、第二詩集『思ひ出』(1911年、東雲堂書店)である。処女詩集は『邪宗門』(1909年、易風社)であるが、『思ひ出』は白秋独自の詩境に達したといわれる作品群であり、近代詩史においても白秋のキャリアの起点となった意味でも重要な詩集である。 本発表では『思ひ出』の中でも「断章」の詩群を中心に、象徴詩の気運が取り巻いていた当時の詩壇において、白秋が選び取った〈抒情小曲〉のスタイルとはいかなるものであったのかを分析する。検討の手がかりとして、「断章」製作期と考えられる時期に、象徴詩とは質が異なる傾向の詩に白秋が用いた〈純感情〉という語について着目しつつ、『思ひ出』が近代詩史において切り拓いた詩的表現について論じる。

浮世草子にみえる艶書の意味と時代性 ―書肆・川勝五郎右衛門刊の作品を中心に―
岡部 祐佳

近世期には、艶書(恋文)とそのやり取りを中心とする艶書小説が多く刊行された。『薄雪物語』『錦木』などはその代表であるが、それらは恋の展開を描く物語としての娯楽性と、和歌や古典知識の教授という啓蒙性を備えるとされてきた。娯楽性と啓蒙性の両立は仮名草子というジャンルの特性ともいえるが、浮世草子にみえる艶書、あるいは浮世草子に分類されている艶書小説にも、同様の意識が備わっていると考えられるものがある。  本発表では以上の問題意識から、浮世草子にみえる艶書について、川勝五郎右衛門が刊行に関わった『新薄雪物語』(正徳六年〈一七一六〉刊)『雲のかけはし』(享保四年〈一七一九〉刊)『薄紅葉』(享保七年〈一七二二〉刊)を中心に考察を行う。具体的には、女子用往来の刊行が相次いだという近世中期の時代性、艶書の散らし書き形式の問題、そして書肆・川勝五郎右衛門の営為との関連について検討することを予定している。

2019年度冬季大会 大会案内

2019年度の冬季大会を次の要領にて開催いたします。今回は研究発表に加えて、本年度をもってご退休になります小林幸夫教授、西澤美仁教授に、記念講演をお願いいたしました。

卒業生の集う場として、懇親会のみのご参加でも構いませんので、どうぞ奮ってご参集下さい。

日時
2020年1月11日(土)13:00~

会場
上智大学 7号館14階特別会議室

研究発表(13:00~)
抒情小曲集『思ひ出』のスタイル―「断章」を中心に
東北大学大学院文学研究科国文学専攻博士前期課程
青木裕里香

浮世草子にみえる艶書の意味と時代性―書肆・川勝五郎右衛門刊の作品を中心に―
大阪大学大学院文学研究科文化表現論専攻博士後期課程
日本学術振興会特別研究員
岡部 祐佳

講演(15:00~)
「吉野山西行庵の成立」再考
上智大学文学部教授
西澤 美仁

講演(16:10~)
近代文学および研究の強み
上智大学文学部教授
小林 幸夫

懇親会(18:00~)
会館主婦プラザエフ 9階スズラン(JR四ツ谷駅麹町口 前)
会費 7000円(学部生3000円)
(当日、会場受付にてお願いいたします。17:30以降にお越し下さい。)

2020年3月をもちまして、永年、本学会を牽引していただいた小林幸夫教授・西澤美仁教授が 本学を退休されます。今回の懇親会は、両教授の今までの御尽力に感謝の意を捧げる場となります。 会員はもちろん会員外の方々も奮って参加していただければ幸いです。 多くの方々のご参集を願っております。

*準備の都合上、12月20日(金)までに出欠のご連絡を願います。

上智大学国文学会 [電話・FAX] 03-3238-3637
jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp

『国文学論集53』 投稿募集

国文学論集53号投稿募集 
国文学論集次号(53号)は、2020年1月発行予定です。
御論文の御投稿をお待ちします。
締切は、2019年9月12日(木) (消印有効)です。
投稿規程は、論文投稿規程又は国文学論集52号を御覧下さい。


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投稿は締め切りました。

2019年度夏季大会 発表要旨

上智大学国文学会 2019年度夏季大会要旨


標記は、次の通りです。


大会プログラムはこちらです。


女三宮・浮舟に対する「らうたし」「らうたげなり」 ―密通・失踪という物語の転換点との関わりに着目して―      藤田 亜美

『源氏物語』において、「らうたし」「らうたげなり」という形容表現は、紫上や宇治の中君をはじめとして、男君から愛される女君に対してよく用いられる傾向がある。『源氏物語』の「らうたし」「らうたげなり」は、男君から女君に対する愛情が垣間見える表現の一つであると言えるだろう。
 『源氏物語』の作中人物の中でも、源氏の正妻である女三宮は四番目に、薫・匂宮の双方から求められる浮舟は三番目に多く「らうたし」「らうたげなり」が用いられている。しかし、女三宮と浮舟は、ともに「らうたし」「らうたげなり」が多用される人物ではありながらも、単純に男君から愛しく思われる女君として描かれているわけではない。
 本発表では、女三宮と浮舟に対する「らうたし」「らうたげなり」という形容表現を一例一例文脈の中で読み解くことによって、これらの表現が密通や失踪という物語の転換点と関わりながら効果的に用いられているさまを明らかにする。

キリシタン版『日葡辞書』「序文」の二重印刷が示す編纂方針について         中野 遙 

キリシタン版『日葡辞書』(1603 長崎刊)の「序文」には、匡郭と活字とが重なって印字されている箇所が見られる。この印字箇所は、諸本によって、左右の僅かなズレが見られ、「序文」が前半(1丁裏8行目まで)と後半(9行目から)と、二度に亘って印刷された事が察せられる。後で印刷されたと考えられる「序文」の後半では、『日葡辞書』編纂上の不備(見出し語配列の混乱、拗長音表記の不統一、訓釈の不徹底、数詞を含む見出し語の欠落)についての言及があり、この記述から、翻って、本来『日葡辞書』が目指した編纂方針を読み取る事が可能となる。
 本発表は、新出のリオ・デ・ジャネイロ本を含む『日葡辞書』現存4本の原本観察と、マニラ本(現所在不明)の写真版の参照に基づき、原本調査による印刷状態の精査が、文献それ自体の性質や編纂の背景を考察・証明する重要な情報を齎し得る事を、調査の実例から示すものである。

上智大学国文学科藏・藤野海南関係資料について                 福井 辰彦

 藤野海南は幕末・明治期の儒者。名は正啓、字は伯廸。伊予松山の人。文政九年(一八二六)生まれ、明治二十一年(一八八八)没。藩校明教館、昌平黌に学んだ後、藩政に参画。維新の際は藩論を恭順に導き、維新後は諸官を歴任した後、修史局編修官となった。その詩文は明治二十四年、『海南遺稿』として刊行された。
 昨年、そのご子孫より本学科に、関係資料約九十点をご寄贈いただいた。今回寄贈された資料には、詩文稿等の自筆資料、書画類、弟・漸の明治二十五年から四十四年に至る日記などが含まれる。
 詳細な整理・研究は今後の課題として、本発表では、特に『海南遺文稿本』、『大日本編年史』(稿本)、旧雨社詩箋等を中心に、資料の概要、研究上の価値などについて報告する。

座談会登壇者主要著作・活動
倉本さおり
「私のおすすめ」(毎日新聞文芸時評)
「ベストセラー街道をゆく!」(週刊新潮)
「倉本さおりの書評系叩き売りラジオBanana」(TBS)

大橋 崇行
『浅草文豪あやかし草紙』(一迅社 メゾン文庫 2019)
『司書のお仕事 お探しの本は何ですか?』(勉誠出版 2018)
『言語と思想の言説 近代文学成立期における山田美妙とその周辺』(笠間書院 2017)

高橋健太郎
『振り向けば、アリストテレス』(柏書房 2018)
『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(文響社 2017)
『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社 2016)

2019年度夏季大会

上智大学国文学会 2019年度夏季大会

標記は、次の通り開催致しました。

発表要旨はこちらです。


日時
2019年7月13日(土)13:30〜

会場
上智大学 7号館14階特別会議室

研究発表(13:30〜)
「女三宮・浮舟に対する「らうたし」「らうたげなり」
―密通・失踪という物語の転換点との関わりに着目して― 」
上智大学大学院博士後期課程 藤田 亜美

「キリシタン版『日葡辞書』「序文」の二重印刷が示す編纂方針について」
上智大学大学院博士後期課程  中野  遙

「上智大学国文学科藏・藤野海南関係資料について」
上智大学文学部准教授  福井 辰彦

座談会(15:50~)
テーマ  卒業生のWriter達
本学本学科の卒業生で著述業に携わっている方々に、著述を始めた契機、その内容や活動について、また、学生時代と現在の仕事との関わりなどを語っていただきます。

司会
小林 洋介(二〇〇一年卒・比治山大学現代文化学部准教授)

登壇者
倉本さおり(二〇〇二年卒・書評家・ライター)

大橋 崇行(二〇〇二年卒・東海学園大学人文学部准教授・作家)

高橋健太郎(二〇〇二年卒・作家・ライター・編集者)


総会(17:30〜)

懇親会(18:00~)
上智大学 2号館5階教職員食堂
会費 4000円(学部生1000円)

卒業生の方の御参加を歓迎します。
参加を希望される方は、7月5日までにご連絡ください。

国文学会事務局 [電話・FAX]03-3238-3637    jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp