上智大学国文学会規約

第一条  本会は「上智大学国文学会」と称する。

第二条  本会は、国文学・国語学・漢文学の研究とその交流に努め、会員相互の親睦を図ることを目的とする。

第三条  本会は、上智大学国文学科の関係教員および卒業生、大学院生、並びに入会を希望する者で理事会の承認を得た者を以て会員とする。学生は準会員とする。

第四条  本会は毎年一回総会を開く。

第五条  本会は左記の事業を行う。

一、研究発表会の開催

二、国文学論集の刊行

三、ホームページの維持

四、その他、親睦会・講演会など本会の目的を達成するために必要な事業

第六条  本会には左記の役員をおく。

一、会長      一名

二、理事    若干名

三、評議員  若干名

四、幹事    若干名

五、会計監査  二名

役員の任期は二か年とする。ただし、重任を妨げない。

第七条  会長は、理事会の推薦に基づき、総会の承認を得て決定する。

会長は本会を代表する。

第八条  理事は左記により定める。

一、国文学科の在職者の互選

二、会長の委嘱

理事は理事会を構成し、会長を補佐して事業の立案並びに会の運営に当たる。

第九条  評議員は、会長の推薦に基づき、総会の承認を得て決定し、会長の諮問に応じて必要な事項を評議する。

第十条  幹事は会長が会員の中から委嘱し、会計・編集その他の専門の業務に当たる。

第十一条 会計監査は、理事会の推薦に基づき、総会の承認を得て決定する。

第十二条 会長は必要に応じて委員会を設けることができる。

第十三条 本会の経費は会費、寄付金その他の収入を以てこれにあてる。

第十四条 本会の入会金は二千円、会費は三千円(準会員は二千円)とする。

     但し、卒業年次入会の場合は入会金を免除する。

第十五条 本会の会計年度は毎年四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる。

理事会は総会において毎年度決算報告を行う。

第十六条 本会の規約改正は理事会の発議を経て、総会の承認を以て行われる。

付則   本会は事務局を、千代田区紀尾井町七番一号  上智大学国文学科事務室におく。

昭和六十年四月一日より施行

平成二年七月七日改正

平成十四年七月六日改正

平成二十四年七月七日改正

平成二十九年七月一日改正

名誉会員推薦内規

一、次の者を理事会の承認を得て、名誉会員に推薦する。

二、専任教員として上智大学で定年を迎えた者。

三、会員のうち七十歳以上の者で、次のいずれかの項目に該当する者。

 (一)本会の役員に十年以上在任した者。

 (二)本会の事業に多大の貢献をした者。

四、名誉会員は、会費納入の義務を免除する。

(昭和六十三年七月九日より施行)

(平成二十四年七月七日改正)       

準会員取扱内規

一、単年度会員とする。(会員名簿には記載しない。)

二、国文学論集の配布をうける。

三、大会への参加が認められる。

四、論集への論文の掲載が認められる。

   (但し、国文学科指導教授の推薦を必要とする。)

(平成二年七月七日より施行)

(平成二十九年七月一日改正) 

上智大学国文学会2022年度冬季大会案内

大会は、予定通り開催いたしました。

日時:2023年1月21日(土)13:30~
会場:Zoom オンライン会議
参加申込み: 次のオンラインフォームに記入の上、御送信下さい。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSeTmmu8d2s4xolPftH-PSyTBQ8E00n2Fpi2DbmnlkyJc62OfQ/viewform

1月19日頃に、発表資料のURL、ZoomのIDとパスワード等を、御記載のe-mail宛にお送りします。

お申込みは2023年1月18日(水)23時59分までにお願いします。締め切り以後、参加をご希望の方は、jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp(上智国文学会事務局)までご連絡ください。

当日のタイムテーブルは次の通りです。

1. 研究発表 13:40~15:00
「社会の罪」を超えて―広津柳浪「雨」論
  石上 真理(小山工業高等専門学校非常勤講師)
『サントスの御作業の内抜書』「言葉の和らげ」とバレト写本に見る『日葡辞書』の記述について
  中野 遙(上智大学基盤教育センター特任助教)

2. シンポジウム 15:20~16:50
「高等学校「国語」新学習指導要領への対応と課題」
司会
  山本 章博(上智大学)
パネリスト
  臼井 浩人(神奈川県立横浜翠嵐高等学校)
  岩村 寧子(立教女学院中学校・高等学校)
  古郡 明子(白百合学園中学高等学校)

発表要旨・シンポジウム趣旨は、上智大学国文学会2022年度冬季大会-発表要旨シンポジウム趣旨を御覧下さい。

上智大学国文学会2022年度冬季大会 発表要旨・シンポジウム趣旨

大会は、予定通り開催いたしました。

発表要旨
「社会の罪」を超えて―広津柳浪「雨」論


小山工業高等専門学校非常勤講師  石上 真理


 広津柳浪「雨」は明治三五年一〇月『新小説』に発表された。この作品は、社会の貧困層の人々が、長雨という自然現象や「家」の封建性のために二重にも三重にも困窮する様を描いた小説である。これは木村洋が指摘する、同時代文学空間において試みられた「社会の罪」の追究の一展開であり、同時に自然現象という日本の風土性から問題を追究した独自の試みだと言える。本発表では、吉松が犯罪に手を染める一連の流れを、これまで等閑視されてきた〈家〉という観点や自然現象との関わりから読み返すことで、従来の作品評価、さらには、「現実観察に鋭い眼を持ちながら、それを批判的につかむ深さを欠き、結局平面的な写実に終始した」(吉田精一)という作家評価の再検討を行う。


『サントスの御作業の内抜書』「言葉の和らげ」とバレト写本に見る『日葡辞書』の記述について


上智大学基盤教育センター特任助教  中野 遙


 キリシタン版『日葡辞書』(1603)には、現存する版本版のもの以前に、写本版のものが存在していた事が、その序文の中で言及されており、写本版をもととして、現存の版本版が刊行されたと推測される。
 先行研究では既に、森田武(1976)によって、天草版『平家物語』(1592)合綴の、マヌエル・バレトによる写本「難語句解」の中に、写本版『日葡辞書』の記述が流入している可能性が指摘されている。また、中野遙(2023刊行予定)では、キリシタン版『サントスの御作業の内抜書』(1592)「言葉の和らげ」、『日葡辞書』、「難語句解」の対照から、『サントスの御作業』「言葉の和らげ」にも、写本版『日葡辞書』の記述が流入している可能性を指摘した。
 本発表では、これらの論を踏まえつつ、「難語句解」以外のバレト写本の記述も調査の対象に加え、『サントスの御作業』「言葉の和らげ」と写本版・版本版『日葡辞書』の記述との影響関係を論じる。

シンポジウム趣旨
高等学校「国語」新学習指導要領への対応と課題

上智大学文学部教授  山本 章博

 平成三〇年に告示された高等学校の新学習指導要領が、令和四年四月、第一学年より実施されている。国語科では、科目の構成が大幅に見直され、必修科目として「現代の国語」「言語文化」、選択科目として「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」が設置された。特に「現代文」を「論理」「実用」と「文学」に区分する考え方について、日本文学関連の学会が「深い憂慮を覚えるもの」として声明を出すなど、大きな議論となっている。この今回の改訂を、高等学校の現場では、どのように受け止め、どのようにカリキュラムを編成したのか。また、今年度より実施されている第一学年において、実際にどのような変化があるのか。三名の現役の高等学校の先生方にご報告いただき、その後、参加者とディスカッションを行い、問題点、課題を見出していきたい。

故佐野摩美氏寄贈・モリソン中国語辞典の紹介

服部 隆

上智大学国文学会会員の佐野摩美さん(院・85年卒)が2022年2月21日に逝去された。かつて森岡健二先生の研究室で一緒に学んだ者として、まだまだ研究・教育両面で活躍していただきたかった佐野さんを失ったことは、悔やんでも悔やみきれない。

佐野さんはお亡くなりになる前に、所蔵されていたモリソンの中国語辞典を本学国文学専攻に託し、必要とする方々への閲覧に供してほしいと依頼された。佐野さんのご希望を汲んで、専攻として謹んでこの任をお引き受けすることとした。

佐野さんは、大槻文彦『日本辞書 言海』の研究者として学会で知られ、国語学・辞書史研究の分野では、以下のようなご著書・論文を発表されている。

  • 1986年12月 「大言海」底稿について(解釈学会『解釈』32巻12号)
  • 1989年 1月 大槻文彦著「言海」の正書法に就いて(上智大学国文学会『国文学論集』22号)
  • 1991年10月 『和英語林集成』が『言海』の語義分類に与えた影響(近代語研究会『日本近代語研究』1号 ひつじ書房)
  • 2009年10月 江藤秀一・芝垣茂・諏訪部仁編著『英国文化の巨人 サミュエル・ジョンソン』(港の人 第5章第3節「明治期に於けるジョンソンの英語辞典の位置づけ」を担当)

また、母校の光塩女子学院において校長職をお勤めになっていた佐野さんには、国語教育の分野でのさまざまな研究と実践がおありなのは言うまでもない。

さて、佐野さんが寄贈されたモリソンの中国語辞典は、

  1. “字典 A Dictionary of the Chinese Language”. Part the First; Chinese and English, Arranged According to the Radicals. By the rev. Robert Morrison. Vol.I.-Part I. Macao, printed at the Honorable East India Company’s Press, by P. P. Thoms. 1815.
  2. “字典 A Dictionary of the Chinese Language”. Part the First; Chinese and English, Arranged According to the Radicals. By R. Morrison, D. D. London: published and sold by Kingsbury, Parbury, and Allen, Leadenhall Street. Vol.II.-Part I. Macao, China: printed at the Honorable East India Company’s Press, by P. P. Thoms. 1822.
  3. “字典 A Dictionary of the Chinese Language”. Part the First; Chinese and English, Arranged According to the Radicals. By R. Morrison, D. D. Vol.III.-Part I. London: published and sold by Kingsbury, Parbury, and Allen, Leadenhall Street. Macao, China: printed at the Honorable East India Company’s Press, by P. P. Thoms. 1823.
  4. “五車韻府 A Dictionary of the Chinese Language”. Part the Second, Chinese and English Arranged Alphabetically. By the R. Morrison, D. D. Part II.-Vol.I. Macao, China. printed at the Honorable East India Company’s Press, by P. P. Thoms. 1819.
  5. “五車韻府 A Dictionary of the Chinese Language”. Part the Second, Chinese and English Arranged Alphabetically. By R. Morrison, D. D. Part II.-Vol.II. Macao, China. printed at the Honorable East India Company’s Press, by P. P. Thoms. 1820.
  6. “A Dictionary of the Chinese Language” Part the Third, English and Chinese. By R. Morrison, D. D. Part III. Macao, China: printed at the Honorable East India Company’s Press, by P. P. Thoms. Published and sold by Black, Parbury, and Allen, Booksellers; Leadenhall Street, London. 1822.

上記の6冊である(1、4、6の扉、および1の本文の写真を末尾に掲げる)。これは、現在『马礼逊文集』(张西平・彭仁贤・吴志良主編:大象出版社:2008.1)所収のRobert Morrison編『华英字典(A dictionary of the Chinese language)』(6冊)においても、影印の形で内容を確認できる。

モリソンの辞典が本邦に与えた影響については、すでに陳力衛『近代知の翻訳と伝播 漢語を媒介に』(三省堂 2019年)が第1部第5章で説明するところである。

モリソン(R. Morrison 1782-1834)は、イギリス生まれのプロテスタントの牧師で、1807年から中国で聖書の翻訳や辞典の編纂に従事した。

江戸時代から明治初期にかけての翻訳語彙には、日本における蘭学者の翻訳と中国における翻訳語彙の輸入という二つの流れがあるが、モリソンの辞典は両者をつなぐもので、前掲書によれば、長崎の蘭通事・吉雄権之助(1758-1831)がこの辞典を入手し、これを元に、オランダ語を付した三語対訳の辞典を編集していたという。

上記対訳辞典の原本は所在不明であるものの、その系統に属すると考えられる写本が、佐野摩美さんの同級生、大橋敦夫氏の「千葉県立佐倉高等学校蔵『模理損字書』訪書記:真田宝物館蔵『五車韻府』との書誌比較」(『上田女子短期大学紀要』27 2004年)により千葉県立佐倉高等学校、および真田宝物館に所蔵されていることが報告されている。

なお、本邦におけるモリソン辞典の書誌研究に当たっては、上記の陳氏の著書の他、飛田良文・宮田和子「十九世紀の英華・華英辞典目録」(『国語論究6 近代語の研究』明治書院 1997年)が、「佐野本」に言及しており、佐野さんの寄贈本は日本における洋学研究において貴重な資料と言える。

モリソンの辞典には、陳力衛氏によれば、「天体、地球、天文、地理、対数、平方」などの訳語が見られるという。佐野氏寄贈本を活用し、近代語彙研究を引き継ぐ若手の国文学会会員の現れることを、大いに期待するものである。(2022.9.14)

◆1.扉
◆4.扉
◆6.扉
◆1.本文(14-15ページ)
◆6冊全体

国文学会新会長挨拶

服部 隆

これまで2期4年間、上智大学国文学会の会長職にあった瀬間正之教授には、コロナ禍のなか国文学会の活動を停滞させぬよう舵取りをしていただきました。

今般、それを引き継ぐ形で、会長職に就くことになりました。まずは新型コロナの状況も見据えつつ、学会の対面開催と会員の皆さんの交流の場の提供を図ることが、私の務めだと思います。その一方で、今後もオンライン開催を組み合わせていき、地方の学会員の方々に気軽に参加していただくことが、学会の活性化にとって必要だと考えております。

昨年5月には、上智大学ソフィア会にも国文学科同窓会が設立されました。国文学会とは、目的とするところに違いもありますが、役割分担をしつつ、相互に協力し合えるはずです。会員の皆様のご意見もうかがいながら、国文学会の発展に向けて、微力ながら仕事をしていきたいと思います。

今後ともなにとぞよろしくお願いいたします。

2022年7月

2022年度冬季大会発表者募集

今年度の冬季大会は2023年1月21日(土)に開催予定です。

開催方法(対面あるいはzoom使用など)につきましては未定です。決定次第、お知らせいたします。

現在発表者を募集しています。
 ・発表時間=30分
 ・発表をご希望の方は氏名・所属・連絡先e-mail・発表題目(仮題可)・発表要旨(200~400字)を添えて、国文学会事務局(jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp)までe-mailにてお申込み下さい。
 ・理事会にて発表者を決定し、その結果を御本人宛にお知らせします。

応募締め切り  2022年10月31日(月)23:59

上智大学国文学会事務局(jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp

国文学論集56 投稿募集

上智大学国文学会『国文学論集』56は、2023年1月に刊行を予定しており、皆様のご投稿をお待ちします。

〈『国文学論集』56 投稿規程〉
・投稿資格は、国文学会会員とする。
・投稿の枚数は、400字詰め原稿用紙40枚以内(注記・図表等を含む)とし、縦書きを原則とする。
・用紙はA4判とし、1ページは、縦書きの場合52字×18行、
横書きの場合36字×26行(ページあたり936字)とし、17ページ以内とする。
必ず各ページにノンブル(ページ番号)を付す事。
・完全原稿とし、未発表論文(口頭発表を除く)に限る。
・投稿先:原則としてpdfを、次へのメールに添付して提出の事。
jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp (上智大学国文学会事務局)
・締切:2022年9月12日(月) 23:59 JSTまでに到着のものを有効な投稿とする。
・審査は、理事会のもと、複数の専門家の査読のうえ、採否を決定する。
・採否にかかわらず、応募論文は返却しない。
・論文掲載者には、掲載誌2部、抜刷40部を贈呈する。

【重要・緊急】上智大学国文学会2022年度夏季大会について

 大会は、予定通り開催致しました。

 上智大学国文学会2022年度夏季大会の発表資料のURL、ZoomのIDとパスワード等は、学会ホームページ上の申し込みフォームに御記載のe-mail宛に、7月7日頃お知らせすることになっておりましたが、やむ得ない事情により、そのような形でのお知らせができなくなりました。誠に申し訳ございません。

 本日、本学会会員のうち、メールアドレスの分かる方には、e-mailにて発表資料のURL、ZoomのIDとパスワード等をお知らせしたところですが、参加ご希望の方で、会員ではない方、あるいは会員でもe-mail未着の方は、お手数ですが上智大学国文学会事務局(jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp)まで、e-mailにてお問い合わせ下さい。

 ご迷惑をおかけしますが、なにとぞよろしくお願い申し上げます。 

上智大学国文学会2022年度夏季大会案内

大会は、予定通り開催致しました。

今年度夏季大会を次の様に開催します。
日時:2022年7月9日(土)13:30~
会場:Zoom オンライン会議
参加申込み: 次のオンラインフォームに記入の上、御送信下さい。
https://docs.google.com/forms/d/1oLL-BuVzDCSJkrnaXWYeXJSPurTk1dANleykGCyxmLQ/
7月7日頃に、発表資料のURL、ZoomのIDとパスワード等を、御記載のe-mail宛にお送りします。

【重要・緊急】上智大学国文学会2022年度夏季大会について – Sophia Kokubun 上智大学国文学会 (sophia-kokubun.jp)

当日のタイムテーブルは次の通りです。
1. 13:40~14:20 研究発表(質疑応答含む、以下同じ)
    菅のの香    中古・中世における複合辞の文法機能――「ニオイテハ」「ニツケテ」を中心に

2.  14:30~15:10 研究発表
    星野佳之  助詞シの変遷について   

3. 15:20~16:00 研究発表
    本廣陽子  『源氏物語』の複合動詞

4.  16:10~ 総会
 ・役員(会長・評議員・ホームページ担当)の改選  
 ・2021年度決算
 ・2022年度事業計画・予算案
 ・上智大学国文奨学金授与式

発表要旨は、上智大学国文学会2022年度夏季大会 発表要旨を御覧下さい。

上智大学国文学会2022年度夏季大会 発表要旨

中古・中世における複合辞の文法機能 ―「ニオイテハ」「ニツケテ」を中心に

女子聖学院中学高等学校国語科特任教諭  菅 のの香

 「ニツイテ」・「ニヨッテ」といったいわゆる「複合辞」は、現代語を中心に研究が進められてきた。本発表では、中古・中世の古典語において、「複合辞」がどのような文法機能を持ち、文章中でどのような役割を担っていたかを明らかにしたい。
 調査対象は、現代語で「複合辞」等とされている詞と形態が一致するものと、ロドリゲス『日本大文典』においてそれらの詞と同列に扱われているものとする。それらの役割は、構文上の区別が可能である。連用修飾句を形成する複合辞は、準体を承けることができるが、題目提示の複合辞は、必ず体言を上接し、準体を承けることができない。また、それらの役割と出現状況は文体差に左右される。題目提示の複合辞について、中古では、「ニツケテ」が和文に「ニオイテハ」が和漢混淆文に用いられるといった棲み分けが見られるのに対し、中世以降の口語体では、「ニオイテハ」のみがその役割を担っている。

助詞シの変遷について

ノートルダム清心女子大学准教授  星野 佳之

 助詞シについては、①「主節内での単独用法」(奈良の明日香を見らくシ良しも、万葉99)は上代を限りにほぼ失われ、中古以降②「主節内で他の助詞と複合する用法」(汝をシゾあはれとは思ふ、古今904)」か、③「順接条件節内に立つ用法」(植ゑシ植ゑば秋なき時や咲かざらむ、古今268)のいずれかに収斂していくことが『あゆひ抄』以来明らかとされている。
 その上で研究史は「助詞「し」の説―係機能の周辺―」川端善明(1962)や『日本語文法大辞典』「し」の項、野村剛史(2001)など、構文的性質の解明に重点が置かれてきたが、近年、形容詞文に立つシの表現内容を「対象の像の明瞭化」と限定的に記述する「助詞シと形容詞文」栗田岳(2020)が発表された。シの目立たない表現価を改めて問う重要な試みとしてこれを踏まえつつ、本発表では「かつがつも最前立てる兄をシ枕かむ」(神武記)等についてより具体的な記述を試み、ここからシ衰退の過程を再度検討し直したい。

『源氏物語』の複合動詞

上智大学文学部准教授  本廣 陽子

 『源氏物語』の文章は、一つの文や一つの言葉に、より多くの内容や様々なニュアンスが込められ表現されるという特徴を持つ。そのような文章の一角を担うのが複合語であり、この使用によって意味内容を圧縮した文学的表現が可能になっていることが従来指摘されてきた。加えて、『源氏物語』の複合語の背景に、漢文の訓読語や歌語の存在があることが指摘されている。一方で、『源氏物語』において、複合語が訓読語や和歌とどのように関わっているのかを具体的に明らかにしたものは少ない。
 本発表では複合語の中でも複合動詞を取り上げたい。そして、『源氏物語』の複合動詞を特に和歌との関係において考察することを通して、『源氏物語』における複合動詞の在り方の一端を明らかにしたい。

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