上智大学国文学会2024年度夏季大会 研究発表要旨

『日本書紀』における「与」字と「及」字    李 明月

 坂本太郎氏は『日本古代史の基礎的研究上 文献篇』(東京大学出版会・一九六四年)において、『日本書紀』において「与」字は二つの事項を連ねて並べるという用法が、天智紀・持統紀に多用されていることを指摘した。

 一方『日本書紀』では、二つの事項を繋げて並べる時に「与」字の他に「及」字も多用されている。

 本発表では、『日本書紀』に見られる虚詞「与」字と「及」字との用法と使用状況について比較調査を行い、各巻の「与」字と「及」字の用法の特徴をまとめる。その調査結果を踏まえて、坂元氏の指摘の妥当性を考えるとともに、『日本書紀』の区分論と『日本書紀』の成立について考究する。

 六国史漢文詔勅の文章表記の特徴について    王 沁臻

 大宝律令以後に、文書で行政を行うために、漢文体の詔勅が発給されるようになった。これらの漢文詔勅の文章は、中国の詔勅を参考に、翻案した部分が存しつつも、変体漢文のように和訓で作成する部分や、さらに宣命のように音声で唱え上げた部分があるとされている。しかし、一般的に和訓で書写された漢字資料として、『古事記』、『万葉集』、宣命が挙げられ、独特な用字法が見られるが、漢文詔勅とこれらとはあまり比較されて来なかったと言える。

 本発表は、漢文詔勅を始めとする六国史の文章を対象に、その中に使用される漢字・漢語を数例取り上げ、変体漢文や正格漢文との比較を行うことで、その用字法、ひいては文章表記の一部を明らかにするものである。

芭蕉の文章論と四六駢儷文の作法――『三冊子』と『四六文章図』   砂田 歩

 芭蕉の文章論に詩文の影響が認められることは、繰り返し指摘されている。しかし、その影響は、主に詩文集を介したものと理解されているようである。本発表では、芭蕉の文章論には、詩文集、いわば詩文そのものだけではなく、四六駢儷文の作法の影響があったことを論じる。

 はじめに、『三冊子』に見える芭蕉の文章論と、四六駢儷文の作法書である『四六文章図』(寛文六年〈一六六六〉刊)の記述に、類似が認められることを論じる。次に、芭蕉が四六駢儷文の作法に触れたきっかけが、『四六文章図』の著者である大顛や、門人の支考との交流にあったことを論じる。おわりに、四六駢儷文の作法にもとづいた、芭蕉の文章の分析を試みる。

キリシタン版ローマ字本「言葉の和らげ」の語釈中漢語語彙について  

―同時代日本資料との対照を中心に―        中野 遙

 一般に、漢語:和語=難:易の関係にあると考えられるが、漢語の中にも難易の位相は存在する。キリシタン版宗教書付属の語彙集「言葉の和らげ」に於いても、見出し語は漢語が圧倒的に多いが、中には、語釈側に用いられる漢語も存在する。この語釈側に用いられる漢語の中には、「言葉の和らげ」間で共通する例が少なくない。これらの漢語は、更に、キリシタン版語学辞書の語釈や、キリシタン版本文の中でも用例が確認される。漢語の中でも、キリシタン語学に於いて、日本語の釈義に用いる事の出来る漢語であると考えられる。

 本発表では、この漢語語彙が、キリシタン版に限らず、同時代日本資料の釈義の中の漢語語彙とも共通する事を指摘する。ここから、キリシタン版の語釈、特に「言葉の和らげ」の語釈の漢語に、同時代の日本に於いても釈義の中にも使用される、「易」の位相の漢語が見られる事を述べ、「言葉の和らげ」の日本語資料としての位置付けを行う。

上智大学国文学会2024年度夏季大会のご案内

 *夏季大会は盛況のうちに終了しました。

2024年度の夏季大会・総会を下記の要領にて開催いたします。

 今回は、研究発表を四本揃えました。前回の冬季大会はオンラインでしたが、今回は対面開催といたします。

 懇親会も予定しておりますので、どうぞ奮ってご参集下さいますようご案内申し上げます。

   2024年6月  上智大学国文学会会長  服部 隆

              記 

【日時】 2024年7月13日(土) 午後1時30分~

【場所】 上智大学7号館14階特別会議室   

【参加費】 学会員=無料  非会員=1,000円

[研究発表](午後1時35分~)   

〇 『日本書紀』における「与」字と「及」字  

  上智大学国文学専攻博士後期課程   李 明月

〇 六国史漢文詔勅の文章表記の特徴について

  上智大学国文学専攻博士後期課程   王 沁臻

〇 芭蕉の文章論と四六駢儷文の作法――『三冊子』と『四六文章図』

  上智大学国文学専攻博士後期課程   砂田 歩

〇 キリシタン版ローマ字本「言葉の和らげ」の語釈中漢語語彙について

  ―同時代日本資料との対照を中心に―

  上智大学基盤教育センター特任助教  中野 遙

    

[上智大学国文奨学金授与式]

[総会](午後4時四45分~)

 一、役員(会長・評議員)の改選、名誉教授の推薦

 二、2023年度決算

 三、2024年度事業計画・予算案  他

[懇親会](午後5時30分~)  

〔会場〕 上智大学2号館五階教職員食堂   

〔会費〕 4,000円

 

*卒業生の集う機会として、懇親会からの出席も大歓迎です。

*準備の都合上、7月5日(金)までにお申し込みください。

*昨今の社会情勢、諸物価高騰の影響を学会も受けております。ご寄付等のご支援についても歓迎いたします。ご協力いただける際は以下にお願いいたします。

ゆうちょ銀行  〇一九(ゼロイチキュウ)店(019)当座 0075907  上智大学国文学会

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国文学会事務局 [電話・FAX]03-3238-3637 jouchikokubungakkai@yahoo.co.jp