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発表要旨
「社会の罪」を超えて―広津柳浪「雨」論
小山工業高等専門学校非常勤講師 石上 真理
広津柳浪「雨」は明治三五年一〇月『新小説』に発表された。この作品は、社会の貧困層の人々が、長雨という自然現象や「家」の封建性のために二重にも三重にも困窮する様を描いた小説である。これは木村洋が指摘する、同時代文学空間において試みられた「社会の罪」の追究の一展開であり、同時に自然現象という日本の風土性から問題を追究した独自の試みだと言える。本発表では、吉松が犯罪に手を染める一連の流れを、これまで等閑視されてきた〈家〉という観点や自然現象との関わりから読み返すことで、従来の作品評価、さらには、「現実観察に鋭い眼を持ちながら、それを批判的につかむ深さを欠き、結局平面的な写実に終始した」(吉田精一)という作家評価の再検討を行う。
『サントスの御作業の内抜書』「言葉の和らげ」とバレト写本に見る『日葡辞書』の記述について
上智大学基盤教育センター特任助教 中野 遙
キリシタン版『日葡辞書』(1603)には、現存する版本版のもの以前に、写本版のものが存在していた事が、その序文の中で言及されており、写本版をもととして、現存の版本版が刊行されたと推測される。
先行研究では既に、森田武(1976)によって、天草版『平家物語』(1592)合綴の、マヌエル・バレトによる写本「難語句解」の中に、写本版『日葡辞書』の記述が流入している可能性が指摘されている。また、中野遙(2023刊行予定)では、キリシタン版『サントスの御作業の内抜書』(1592)「言葉の和らげ」、『日葡辞書』、「難語句解」の対照から、『サントスの御作業』「言葉の和らげ」にも、写本版『日葡辞書』の記述が流入している可能性を指摘した。
本発表では、これらの論を踏まえつつ、「難語句解」以外のバレト写本の記述も調査の対象に加え、『サントスの御作業』「言葉の和らげ」と写本版・版本版『日葡辞書』の記述との影響関係を論じる。
シンポジウム趣旨
高等学校「国語」新学習指導要領への対応と課題
上智大学文学部教授 山本 章博
平成三〇年に告示された高等学校の新学習指導要領が、令和四年四月、第一学年より実施されている。国語科では、科目の構成が大幅に見直され、必修科目として「現代の国語」「言語文化」、選択科目として「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」が設置された。特に「現代文」を「論理」「実用」と「文学」に区分する考え方について、日本文学関連の学会が「深い憂慮を覚えるもの」として声明を出すなど、大きな議論となっている。この今回の改訂を、高等学校の現場では、どのように受け止め、どのようにカリキュラムを編成したのか。また、今年度より実施されている第一学年において、実際にどのような変化があるのか。三名の現役の高等学校の先生方にご報告いただき、その後、参加者とディスカッションを行い、問題点、課題を見出していきたい。