2019年度夏季大会 発表要旨

上智大学国文学会 2019年度夏季大会要旨


標記は、次の通りです。


大会プログラムはこちらです。


女三宮・浮舟に対する「らうたし」「らうたげなり」 ―密通・失踪という物語の転換点との関わりに着目して―      藤田 亜美

『源氏物語』において、「らうたし」「らうたげなり」という形容表現は、紫上や宇治の中君をはじめとして、男君から愛される女君に対してよく用いられる傾向がある。『源氏物語』の「らうたし」「らうたげなり」は、男君から女君に対する愛情が垣間見える表現の一つであると言えるだろう。
 『源氏物語』の作中人物の中でも、源氏の正妻である女三宮は四番目に、薫・匂宮の双方から求められる浮舟は三番目に多く「らうたし」「らうたげなり」が用いられている。しかし、女三宮と浮舟は、ともに「らうたし」「らうたげなり」が多用される人物ではありながらも、単純に男君から愛しく思われる女君として描かれているわけではない。
 本発表では、女三宮と浮舟に対する「らうたし」「らうたげなり」という形容表現を一例一例文脈の中で読み解くことによって、これらの表現が密通や失踪という物語の転換点と関わりながら効果的に用いられているさまを明らかにする。

キリシタン版『日葡辞書』「序文」の二重印刷が示す編纂方針について         中野 遙 

キリシタン版『日葡辞書』(1603 長崎刊)の「序文」には、匡郭と活字とが重なって印字されている箇所が見られる。この印字箇所は、諸本によって、左右の僅かなズレが見られ、「序文」が前半(1丁裏8行目まで)と後半(9行目から)と、二度に亘って印刷された事が察せられる。後で印刷されたと考えられる「序文」の後半では、『日葡辞書』編纂上の不備(見出し語配列の混乱、拗長音表記の不統一、訓釈の不徹底、数詞を含む見出し語の欠落)についての言及があり、この記述から、翻って、本来『日葡辞書』が目指した編纂方針を読み取る事が可能となる。
 本発表は、新出のリオ・デ・ジャネイロ本を含む『日葡辞書』現存4本の原本観察と、マニラ本(現所在不明)の写真版の参照に基づき、原本調査による印刷状態の精査が、文献それ自体の性質や編纂の背景を考察・証明する重要な情報を齎し得る事を、調査の実例から示すものである。

上智大学国文学科藏・藤野海南関係資料について                 福井 辰彦

 藤野海南は幕末・明治期の儒者。名は正啓、字は伯廸。伊予松山の人。文政九年(一八二六)生まれ、明治二十一年(一八八八)没。藩校明教館、昌平黌に学んだ後、藩政に参画。維新の際は藩論を恭順に導き、維新後は諸官を歴任した後、修史局編修官となった。その詩文は明治二十四年、『海南遺稿』として刊行された。
 昨年、そのご子孫より本学科に、関係資料約九十点をご寄贈いただいた。今回寄贈された資料には、詩文稿等の自筆資料、書画類、弟・漸の明治二十五年から四十四年に至る日記などが含まれる。
 詳細な整理・研究は今後の課題として、本発表では、特に『海南遺文稿本』、『大日本編年史』(稿本)、旧雨社詩箋等を中心に、資料の概要、研究上の価値などについて報告する。

座談会登壇者主要著作・活動
倉本さおり
「私のおすすめ」(毎日新聞文芸時評)
「ベストセラー街道をゆく!」(週刊新潮)
「倉本さおりの書評系叩き売りラジオBanana」(TBS)

大橋 崇行
『浅草文豪あやかし草紙』(一迅社 メゾン文庫 2019)
『司書のお仕事 お探しの本は何ですか?』(勉誠出版 2018)
『言語と思想の言説 近代文学成立期における山田美妙とその周辺』(笠間書院 2017)

高橋健太郎
『振り向けば、アリストテレス』(柏書房 2018)
『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(文響社 2017)
『鬼谷子 100%安全圏から、自分より強い者を言葉で動かす技術』(草思社 2016)